2023年 福島賞受賞コメント

2024年1月に行われた新年教室研究会で、村瀬玲子先生と高岡早紀先生が2023年の福島賞を受賞されました。

村瀬先生論文タイトル: Levels of preoperative cerebrospinal fluid pro-inflammatory mediators and chronic pain after total knee arthroplasty surgery

論文掲載誌:Acta Anaesthesiologica Scandinavica. 2023; 67(8): 1091-1101.

高岡先生論文タイトル: Decreased interoceptive awareness as a risk factor for moderate to severe pain in Japanese full-time workers: A longitudinal cohort study

論文掲載誌:Journal of Clinical Medicine. 2023; 12(8): 2896.

村瀬先生受賞コメント

このたびは福島賞という素晴らしい賞を頂くことが出来てとても嬉しく思っております。

私は子育てなど日々の生活に追われ、臨床医として鍛錬することだけで精一杯で、いままで研究とは無縁でした。そんな中、せっかく大学にいるのだから臨床研究をしてみないかと声を掛けていただき、また森﨑教授からもいいチャンスなのだから頑張ってみたらどうかと背中を押していただき、挑戦することにいたしました。

実際始めてみると、統計ソフトは使いこなせないし、勉強しても理解できないことがたくさんあり、たまたま医局にいらした留学経験や研究経験のある先生を捕まえては質問攻めにしていました。また、小さい子供もいて取り組む時間があまり作れない上に、家にいるとやらなくてはいけない事がみえてしまい集中できないため、夫が帰宅してから夜中にファミレス等に出かけていき勉強したり、受験生の子供と一緒に子供部屋で勉強したりと学生時代の試験前のような時間を過ごしたことも今となってはいい思い出です。時には指導して下さる先生方の話の内容が難しくて困ったりもしましたが、何でも聞いていいよと言っていただいたお言葉に甘えて、たくさんのサポートをしていただいた結果、論文が完成し、このような素晴らしい賞を頂くことができました。

更に、私はこの論文で学位を取得することができました。ご指導いただいた森﨑教授、小杉先生、加藤先生をはじめ、協力してくださった医局員の多くの先生方に対して、感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございました。

村瀬 玲子

高岡先生受賞コメント

この度は素晴らしい賞をいただき大変嬉しく思います。私は今回、慢性痛に関連した研究で受賞することができましたが、実は麻酔学教室に入局した時、自分が慢性痛診療、そして研究に携わることになるとは夢にも思っていませんでした。転機となったのは後期研修でのペインクリニック研修、そしてその後の国内留学経験です。

後期研修プログラムの一環として慢性痛診療に初めて携わりましたが、それまで手術麻酔しか経験のなかった自分にとっては未知の世界を覗く感覚でした。慢性痛で苦しむ方々がこんなにも多くいらっしゃること、そして痛みが感情面や生活機能面にも多大な負の影響をもたらすことを初めて知りました。そして研修を行う中で、患者さんとの対話や手術麻酔で得た神経ブロックの技術を駆使して治療することに大きなやりがいを感じました。その後、日本のペインクリニック発祥の地であるNTT東日本関東病院ペインクリニック科での国内臨床留学の機会をいただき、勉強できたことも知識と経験を深める貴重な経験となりました。

一方で、様々な治療を行なっても改善が得られない複雑な痛みにも数多く直面し、このような難治性の痛みの背景にあるリスク因子は何なのだろうか?どのような介入が役立つのだろうか?と悩み考えるようになりました。そのような中、携わることになったのが今回受賞のきっかけとなった慢性痛の疫学研究でした。データの解析や解釈、論文の執筆は初めての経験であり、悪戦苦闘しながらの作業でしたが、指導医の先生が懲りずに丁寧に指導してくださったおかげで研究結果が形になり、とても嬉しく思いました。同時に、慢性痛には解明されていない側面がまだまだ沢山あることを知り、研究の面白さや意義を実感し、大学院への進学を決意するきっかけとなりました。

このように、慶應の麻酔学教室には慢性痛診療を含めた多様な麻酔関連領域の研修体制が整っており、これを経験できること、また希望すれば国内臨床留学や大学院進学を含め臨床面・学術面で更なるステップアップの機会が得られることなど、麻酔科専門医取得後の進路選択肢は非常に多様かつ柔軟であることを身をもって感じています。来年度から大学院に進学することになりますが、研究を通して慢性痛の未知なる領域を探求し、少しでも役に立てるよう努力を続けたいと思います。

高岡 早紀

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