基礎研究
当麻酔学教室は、広々とした独自の研究スペースを有しており、基礎研究も活発に行なっています。研究領域は、麻酔学のみならず、痛みや集中治療医学など多岐に及びます。核酸・タンパク質の定量解析をはじめとした分子生物学・免疫組織学的手法からマウスの行動解析に至るまで多彩な実験が行われています。医局員及び博士課程大学院生を中心に、様々な挑戦的な課題に取り組み、医学の発展に日々励んでいます。
痛み慢性化の機序の探究
“痛み”は私たちにとって不快な感覚ですが、危険を知らせる必要不可欠な感覚です。しかしながら、一部の患者においては痛みの原因が除去された後も痛みが続き、慢性痛をもたらすことがあります。疫学調査では、日本国民成人の25%が何らかの慢性痛を有し、いわば慢性痛が国民病とも呼べる現状であることが報告されております。また、手術を受けた患者においても一定の割合で、術後の痛みが長期的に遷延化することが知られています。
このような痛みが慢性痛に移行する機序は不明な点が多く、そのため有効な予防・治療法が確立されていないのが現状です。
最近の研究で、痛みの慢性化の過程で、末梢および中枢神経において、神経細胞やグリア細胞などを巻き込む炎症反応が重要な役割を果たしている可能性が報告されています。当研究室では、この末梢・中枢神経系での感作機構への関与が示唆される因子に着目し、様々なマウスモデルを用いて、免疫組織学的・生化学的手法などの基本的な方法や最新鋭の研究手法・機器を用いた方法を駆使し、痛みの慢性化の機序を突き止め、新たな予防・治療法を確立できるよう研究を進めています。
遠隔虚血プレコンディショニングのメカニズムを利用した
心停止後症候群治療戦略の検討
心肺蘇生法の改善・普及によって自己心拍再開率は飛躍的に改善しましたが、心停止・心肺蘇生後の死亡率はいまだに非常に高いことをご存知でしょうか?その原因の一つは、全身性の虚血再灌流障害によって引き起こされる心停止後症候群(PCAS: post cardiac arrest syndrome)であり、生存者にも様々な後遺症を残し社会復帰を阻む要因となっています 。
遠隔虚血プレコンディショニング(RIPC: remote ischemic preconditioning)とは、四肢骨格筋に短時間の駆血・解除(虚血・再灌流)を施すと、心臓などの遠隔臓器の致死的虚血再灌流障害が軽減される現象です。近年、『遠隔臓器にどの様な伝達物質が、どの様な経路で影響を及ぼすのか』が、徐々に明らかになりつつあり、虚血再灌流障害の新たな治療戦略として期待されています。
私達は、RIPCのメカニズムを利用した特別な施設や機器を必要としない、新しいPCASの治療法開発へと展開させることを目標に研究を進めています。